[中~上級耳コピ楽曲分析]海の幽霊/米津玄師~③-1.大サビ転調篇(背景スケール分析)~

[楽曲分析]海の幽霊/米津玄師③-1大サビ転調詳細篇(背景スケール分析)
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本記事は音楽理論記事の中級者以上向けなので、作品の世界観の解釈記事を読みたい人はコチラの記事、コード進行を見て演奏してみたい人やコード分析を読みたい人はコチラの記事を見てね!

実際のヒット曲で学ぶ音楽理論だよ!キミの音楽理論で整理した武器で楽曲を分析し、得られた知見をキミの音楽理論にフィードバックしてレベルアップいくんだ!

コード進行は「楽曲情報」ウィジェットで好きな調に移調できるから、分析やコピー演奏の際の参考に活用してみてね!

過去に耳コピ+分析した作品たちは カテゴリ検索 または 目次(手動更新のため不定期) から参照できるよ。それではいってみよー!


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楽曲情報

今回は アーティスト米津玄師作品名海の幽霊 だよ。映画「怪獣の子供」の主題歌だね。

調Aだよ。

本作品の別記事はこちら

コード進行

コード進行は前回の記事の『コード進行』を見てね。

背景スケール分析篇

背景スケール分析とは

個別記事をまだ書けていないので簡単にここに書いちゃうけど、背景スケール分析とは

  • 音楽の世界感は7つ以下の音の空間から構築されてる(いわゆるスケール)
  • この7つの音によって音楽世界の雰囲気が決まる
  • コードは7つの音を確定させる要素としての役割+その空間内の物語的役割を決める役割

のような考えのもと、「じゃー音楽を聴いてる今この瞬間はどんな7つの音で構成されてるの?」っていうのを見て、考察する理論だよ。

簡単に言うとコード理論は「コード進行を見る分析」だけど、背景スケール分析は「スケール変化を見る分析」って感じ。

従来のコード分析だと以下のようなケースが分析し辛かったり、そもそも分析できなかったりするんだ。

  • コードが同じでも背景が違う雰囲気が違う
  • コードが違っても背景が同じだと雰囲気が同じ(近い)

そういったところを背景スケールで紐解いていくよ。

背景スケール分析(1.大サビ転調詳細)

楽曲の基本スケール

この作品のキーはほぼAメジャーキー/F♯マイナーキー

図:Aメジャーキーのスケール(Aメジャースケール)

スケールのものさしで測ると、上図のとおりメジャースケール(マイナースケール)の目盛りと合致するね。本ブログでは水色のものさしがダイアトニックスケール(メジャースケール/マイナースケール)を測るものさしとして今後も登場するよ。

背景スケール変化:大サビ転調(借用)の詳細

大サビの転調(借用)の詳細を見ていこー。

♭Ⅵ Ⅴm7 Ⅶdim/Ⅱ Ⅵm7(11)
ⅣM7 Ⅴ7 Ⅰadd9

前回書いた転調の手法は、

  1. 冒頭で唐突に♭Ⅵを聴かせる『The・転調』 ※記事はこちら
  2. 転調先での短調のドミナント(♯Ⅴdim≒Ⅲ7)を元の調の長調のドミナント(Ⅶdim≒Ⅴ7)と見なしてさりげなく戻ってくる『気づかせない転調』 ※記事はこちら

って書いたね。その2点を見ていくよ。後者についてはコード理論では見えてこなかった「なぜこんなにスムースに転調したのか」って点が見えてくるよ。

冒頭の転調『The・転調』

冒頭の「思いがけず~ひ(かるのは)」の歌詞とその音程を元の調のディグリー(小文字ローマ数字はキーから見たディグリー)で見てみると

(お)
=== 1つ目のコード ===
歌詞:   
メロ:♭ⅶ ♭ⅶ ♭ⅵ
和音:♭Ⅵ(=♭ⅵ♭ⅲ)
=== 2つ目のコード ===
歌詞:
メロ:♭ⅶ♭ⅲ
和音:Ⅴm7(=♭ⅶ)

となっている。コード一発目で出てきた音階は

♭ⅲ♭ⅵ♭ⅶ

で、聞き手の心の中のスケール(背景スケール)が上書きされてこんな状態になる。

図:AメジャーキーがCメジャースケール化

♭ⅲ♭ⅵ♭ⅶ

これを♭ⅲ=ドからメジャースケールの物差しで測ると、(ついでにドの位置をⅰとして数字を振りなおすと)

図:Cメジャーキー(Cメジャースケール)

この時点でばっちり同主調のCメジャーキーの世界に入ったことがわかる(転調ではなくCメジャーキーからの借用の見方でもいいよ)。数字の順に並び替えるとこう。



2つ目のコード

Ⅴm7(=♭ⅶ)

もこのスケール内のコードになっていて、引き続き完全に同主調モード発動中だね。つまり先ほどのメロディパートを同主調の世界のディグリーで書きなおすとこうなる

(お)
=== 1つ目のコード ===
歌詞:   
メロ:  
和音:(=)
=== 2つ目のコード ===
歌詞:
メロ:
和音:Ⅲm7(=)

コード進行は、

コード進行: → Ⅲm7

コード1発目で一気に背景スケールが同主調の世界に仕上がっていたんだ。

そしてこの時点で元の調との乖離はスケールの1,4,5番目の音だけ。これらがすべて♯して

♯ⅰ♯ⅳ♯ⅴ

の音が聞こえたら心の中のスケール(背景スケール)が上書きされて元の調に転調するね。続いて転調先から戻る方を見ていくよ!

戻る転調『気づかせない転調』

♭Ⅵ Ⅴm7 Ⅶdim/Ⅱ Ⅵm7(11)

このコード進行は同主調の世界では次のディグリーになる。

 Ⅲm7 ♯Ⅴdim/Ⅶ ♯Ⅳm7(11)

この3つ目のコードのところ、前回のコード分析のサビの解説では♯Ⅴdimが背景スケールをハーモニックマイナー化する話を取り上げたね。コード理論的には短調のドミナントだってことくらいまでなんだけど(コードだけ見るとって意味)、実は背景ではとても親切な転調に向けたおもてなしが行われているんだ。

実際の歌メロを見てみると

(ひ)
=== 3つ目のコード ===
歌詞: ~    
メロ:♯ⅴ♯ⅳ ♯ⅴ
和音:♯Ⅴdim/Ⅶ(=♯ⅴ)
=== 4つ目のコード ===
歌詞: ~
メロ: ~
和音:♯Ⅳm7(11)(=♯ⅳ♯ⅰ)

この3つ目のコードの時点で、転調に必要な

♯ⅰ♯ⅳ♯ⅴ、の内、♯ⅳ♯ⅴ

が背景スケールを上書きした。つまりメロディックマイナー状態

Scale-MelodicMinor
図:Aメロディックマイナー

あとは1番目の音が♯した状態で耳に飛び込んできて、心の中のスケールが上書き更新されたら元の調に戻れる。

パプリカの時は、メロディックマイナーと、その後にピカルディの3度がⅰを♯させるという合わせ技で転調してたね。図を再掲すると

今回は、♯ⅰの音は4つ目のコード構成音♯Ⅳm7(★)に含まれてるんだ。

=== 4つ目のコード ===
歌詞: ~
メロ: ~
和音:♯Ⅳm7(11)(=♯ⅳ、★♯ⅰ)

でもこの♯Ⅳm7って誰?って思うよね。この子の正体は、前回のコード分析の通り元の調のトニックの

Ⅵm7

だ。つまり今回は

  1. メロディックマイナーのメロディで4,5番目を♯させ、
  2. 転調先のトニックで1番目を♯させる

という合わせ技で元の調へ転調したんだ。コード分析だけだと後者しか読み取れないけど、背景スケール分析をすると、事前にメロディックマイナーで転調先に近づけるおもてなしが見えてくるね。転調の違和感のなさの正体はこれ。徐々に変化し近づくテクニック。

この大サビでの出来事をまとめると

コード1つ目、2つ目は同主調での出来事、コード3つ目が同主調と元の調の共通的な出来事なんだけど、その3つ目のコードの中で背景スケールの変化(メロディックマイナー)をすることでめちゃくちゃ元の調側に近づけてる。そしてコード4つ目でストンとそのまま元の調に転調している。その後は元の調の世界。

図:海の幽霊 大サビ転調
図:海の幽霊 大サビ転調

こうやってみるとメロディックマイナーが同主調との懸け橋に見えてくるね(実際に元の調との音の違いはドが♯するかしないかっていう1点だけだもんね)


冒頭の♭Ⅵという転調(あるいは借用)は、おもてなしもフリもない転調なのでギャップやエネルギーが強い転調。戻るときの転調はおもてなしにおもてなしを重ねた丁寧な転調で、気づかれにくい優しい転調、といった感じ。米津さんの使い分けがすごい。

次回は背景スケール分析(詳細)2!

はぁ…今回で書ききるつもりだったけどまた長くなっちゃったので分けるねw

次回はサビでの2つのスケール変化、1つ目はコード分析でも明白なものだけど、2つ目はコード分析では見えてこないもの。これこそが神懸ってる部分。

これもまた近い内に書くので…!

それじゃーね!

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その他、米津玄師さん作品の別記事はこちらだよ!

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コメント

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