前回の記事は音楽理論記事の中級者以上向け、本記事はそれより少し難易度高め(?)なので、作品の世界観の解釈記事を読みたい人はコチラの記事、コード進行を見て演奏してみたい人やコード分析を読みたい人はコチラの記事を見てね!
実際のヒット曲で学ぶ音楽理論だよ!キミの音楽理論で整理した武器で楽曲を分析し、得られた知見をキミの音楽理論にフィードバックしてレベルアップいくんだ!
コード進行は「楽曲情報」ウィジェットで好きな調に移調できるから、分析やコピー演奏の際の参考に活用してみてね!
過去に耳コピ+分析した作品たちは カテゴリ検索 または 目次(手動更新のため不定期) から参照できるよ。それではいってみよー!
目次
楽曲情報
今回は アーティスト: 米津玄師 の 作品名: 海の幽霊 だよ。映画「怪獣の子供」の主題歌だね。
調は Aだよ。
本作品の別記事はこちら
コード進行
コード進行は前々回の記事を見てね。
背景スケール分析篇
背景スケール分析とは
これも前回の記事を見てね。今後個別記事を書いたらリンク張りなおすね。
背景スケール分析(2.サビ分析)
楽曲の基本スケール(再掲)
前回の再掲だけど、この作品のキーはほぼAメジャーキー/F♯マイナーキー。
スケールの物差しで測ると、上図のとおりメジャースケール(マイナースケール)の目盛りと合致するね。
サビの中を見ていこー!
背景スケール変化:①サビ前半の短調ドミナント
まずは基本的なところ。コード理論でも把握可能なところだけど一応見ていこう。
まずはサビ冒頭。
①Ⅳadd9 ♯Ⅴdim Ⅵm7
②ⅣM7(9) Ⅴ Ⅵm
…
このコード進行のコード2つ目で、楽曲の基本スケールからはみ出す音が出てくる。それは、下図の『?』の音
背景スケールは7つ以下の音になるので、基本スケール(Aメジャースケール)のどれかの音が変化した音なんだけど、この時点では両隣(ミ、ファ♯)のどっちの音が変化したのか判明してない。※感覚的にはミの変化と捉える人が多いのかな。
2つ目のコードから3つ目のコードにかけてベース音が
♯ⅴ → ⅵ
と解決しているように聞こえるから、この2つは別の音(カタカナ表記のドレミで表現するときも別のカタカナで表記する)。つまり「ファ」と「ファの♯」ではなく、逸脱してた音は「ミの♯」というミの変化であって、コードとスケールはこうなる。
♯Ⅴdim=♯ⅴ、ⅶ、ⅱ
スケールの物差しで測ると、上図のとおりハーモニックマイナースケールの目盛りと合致するね。本ブログでは紫色のものさしがハーモニックマイナースケールを測るものさしとして今後も登場するよ。ⅵの音にぐぐっとキツく暗く切なく差し迫るハーモニックマイナーの空気感。
…ここら辺はコード理論でもなんとな~くわかる範疇だね。
背景スケール変化:②2回目以降のサビ最後
コード分析時点では、この作品は一貫して456に代表されるようなSD→D→Tだってざっくり書いたね。実は…
…
…
あれは嘘
実は、サビの中に違うところがあるんだ。コードレベルではなく機能レベルで。これに気づいて僕はめちゃくちゃ衝撃が走った。
2回目のサビの進行、こうなってる。
①Ⅳadd9 ♯Ⅴdim Ⅵm7
②ⅣM7(9) Ⅴ Ⅵm
③Ⅳadd9 ♯Ⅴdim Ⅵm7
④ⅣM7 Ⅴ/♭Ⅵ(※) Ⅰadd9
===
※演奏に関しては実質♯ⅤdimでOK
この④2つ目のコード構成音は鍵盤で見るとこうなってる。
そして①や③の2つ目のコードはこう。
だいたい同じだね。E/Fからミの音を省略すれば全く同じだから、演奏するってだけなら※に書いてるように①や③と同じ♯Ⅴdimコードを鳴らせばいいよね。でも果たしてこれらの響きは同じ?
…
…
…
響きは別物!(機能も別!)
感じ取れるかな。感想は人によると思うけど、①や③はキツく心を縛る切ない感じ、④は優しく切ない感じ。
コード理論的な違い、それぞれの代理できるコードを言うと、①や③はⅢ7の短調のドミナント、④はⅣmで長調のサブドミナントマイナー。この機能で置き換えたコード進行はこう。
①Ⅳadd9 Ⅲ7 Ⅵm7
②ⅣM7(9) Ⅴ Ⅵm
③Ⅳadd9 Ⅲ7 Ⅵm7
④ⅣM7 ⅣmM7(※) Ⅰadd9
===
※Ⅴ7(♭9)でもOK
大サビ以外のコード進行がSD→D→Tで物語を紡ぐ中、ここだけ祈りを捧げるようなSD→SDM→Tなんだ。ここだけ。
なぜこんなことが起きるか、それは背景スケールが別物だから。①や③はハーモニックマイナーだったね(さっき①サビ前半のとこに書いた話)。ここでは④を見ていこう。一旦①や③と同じコード(♯Ⅴdim)として書くよ。
(大切なことは言葉にならない)
(はねる)
=== ④-1 ===
歌詞:ひ か り
メロ:ⅵ ⅴ ⅵ
和音:ⅣM7=ⅳ、ⅵ、ⅰ
=== ④-2 ===
歌詞:に と か し
メロ:ⅴ ⅳ ⅲ ⅱ
和音:♯Ⅴdim=♯ⅴ、ⅶ、ⅱ
=== ④-3 ===
歌詞:て
メロ:ⅰ
和音:Ⅰadd9=ⅰ、ⅲ、ⅴ、ⅱ
④-1のコード、楽曲の基本スケール(Aメジャースケール、ダイアトニック)内だね。ローマ数字に♯や♭がつかない。
ここに④-2で2つ目のコードが舞い降りる。鍵盤だとさっきの
の赤丸の構成音だね。これを基本スケール(水色)の上に重ねると下図のような状態になる、『?』が基本スケール(水色の音階)を飛び出す音。
サビ前半のときのこの『?』の正体は「ミ」が変化した「ミ♯」だったね。今回のも見た目的には①と変わらないんだけど、何が違うのか。それは米津さんの歌うメロディ。
=== ④-2 ===
歌詞:に と か し
メロ:ⅴ ⅳ ⅲ ⅱ
和音:♯Ⅴdim=♯ⅴ、ⅶ、ⅱ
上のようにコード構成音を「♯ⅴ」で表すと、メロディのⅴとコードの♯ⅴでローマ数字のⅴが2種類出てきて、この調の5番目の音がどっちかわからない状態になる。ってことは『?』の音はⅴの変化じゃないってことになる。じゃー『?』は誰なのか。そう、ⅵが半音下に変化した♭ⅵってことだ。つまり
=== ④-2 ===
歌詞:に と か し
メロ:ⅴ ⅳ ⅲ ⅱ
和音:?=♭ⅵ、ⅶ、ⅱ
となるね。
この④-2で使われてる数字は、背景スケール7つの音の内ⅰ以外すべて出てくる。そしてⅰも直前の④-1や次の④-3でⅰのままの形(♯はつかない)ので、これらを並べると
ⅰ、ⅱ、ⅲ、ⅳ、ⅴ、♭ⅵ、ⅶ
という背景スケールになっている。この状態はAハーモニックメジャースケールの中ってことになる。
ハーモニックメジャースケールっていうのは、ハーモニックマイナースケールの3番目の音が半音上がった(短3度が長3度になった)もの、もしくはメジャースケールの6番目の音が半音下がったスケール。本ブログでは黄色のものさしがハーモニックメジャースケールを測るものさしとして今後も登場するよ。
このスケールの雰囲気を大きくもつ代表的なコードはⅣm、サブドミナントマイナーだ。(※旧来の理論ではⅣmは同主調の借用コードなんて言われるけど、背景スケール分析ではⅣmやⅣmM7は変化量の少ないハーモニックメジャースケール出身と見るよ。Ⅳm7になったら同主調からの借り物)
つまり、元のスケールからはみ出した音が持つ響きはⅢ7のキツい響きではなく、Ⅳmの優しく切ない響きになる。言葉を変えて単音に還元すると、同音であるこの音は「ミ♯はキツい」「ファは優しい」という響きの違いがあり、サビの①と③のコード2つ目は「ミ♯」、サビの④のコード2つ目は「ファ」になっている。
そして、①と③の♯Ⅴdim≒Ⅲ7はドミナントとしてⅥm方向へ行きたい短調のコードだけど、④のⅤ/♭Ⅵ≒Ⅴ(♭9)≒ⅣmはⅠに行きたくなる長調のコード。ここでは実際Ⅰ方向へ解決して、納得の解決感をもたらしている。
どう?後ろの音たちが同じ音を奏でているのにも関わらず、米津さんの奏でるメロディによって雰囲気を別物に変化させているんだ。コードがちょこっと変わったって次元じゃない、長調と短調という全く別物の世界。
米津さんがこれを意図したのかは不明。
もし意図してやったならヤバすぎるくらい素晴らしすぎるし、偶然こうなったのなら神懸ってるね。①や③と同じシチュエーションにしようって思いで同じコードにしたら、たまたま彼の歌唱が背景を優しい祈りのような方向に変えてしまったのだろうか…?
おわりに
さて記事を1つ書くつもりで始めた本作品の分析だけど、蓋を開けたら書きたいことだらけになって
と4つの記事にもなっちゃったねw
書きたいことは尽きないけれど、とにかく素敵な作品でした。
お疲れさまでした、最後まで読んでくれてありがとう!
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その他、米津玄師さん作品の別記事はこちらだよ!