さぁこれからダイアトニックの世界の外に飛び出していくのだけど、まずはその序章として、どんな外の世界があるかを見ていくよ。
ただやみくもにダイアトニックを飛び出たって感動的なものはできない、どんなものがあってどう飛び出してどんな景色が見えるかを音を聴きながら描いていこー!
短調(マイナーキー)の響き
以降、マイナーキー=短調、メジャーキー=長調、キー=調のこと。
調性について書くときは長調/短調と書くよ。漢字の見た目(長or短)で雰囲気が分かりやすいからね。具体的な調(キー)を書くときは○メジャーキー/×マイナーキーと書くよ。変二長調と書いてもトニックコードが分かりにくいけど、D♭メジャーキーって書いたらトニックコードがD♭だって一目瞭然でしょ?そんな美味しいとこどりで!
スケールの響き
長調はメジャースケールの響きで明るい、短調はマイナースケールの響きで暗かったね。以前聞いたサンプルをもう一度聞いておこう。前者がメジャースケール、後者がマイナースケールだよ。
どう?どちらも同じ白鍵盤を弾いてるだけなのにマイナースケールには暗さを感じるよね。さて実際の楽曲を聴いて長調/短調を考えてみよう。
楽曲例とクイズ
さてここでクイズだよ!楽曲が長調なのか短調なのか考えよう!まずはレゲエでEnglishman in NewYork!
どうだろう?歌詞を考えなくても、曲を通してほぼずっともの悲しい曲調だね。これは短調だね。
さて、次は東京オリンピックの公式NHK応援ソングでもある米津玄師作曲のパプリカだよ!これはどうだろう?※オフィシャルのYoutube埋め込みができないようなので、リンクを貼るね。
さぁ考えてみよう。これについての回答は後ほど!
短調(マイナーキー)とは
先にことわっておくと、ここから記載する内容、クラシックなどの古くからある概念は一度壊してJ-POPなどの昨今の音楽に役に立つ形で再定義するよ。美味しいとこどりをするんだ!従来のものを知ってるキミもその点を意識して読んでみてね。手短に結論が知りたいキミは『一般的な短調の概念との比較』の項を見てね。
短調(マイナーキー)を定義…しない(?
マイナキーとはなんなのか、定義…しないよ!曖昧のままにする。あえて区別するときには、曲の中心をⅠに感じたかⅥmに感じたか、つまり曲を通して明るく感じたか明るくないと感じたかで呼ぶよ。
呼び方は、明るいと感じた時は「(Ⅰの位置の名前)+メジャーキー」、明るくないと感じたら「(Ⅵの位置の名前)+マイナーキー」と呼ぶよ。例えば白鍵盤の世界であれば、Ⅰ=C、Ⅵm=Amだから、
- 明るいな ⇒ Cメジャーキー
- 明るくないな ⇒ Aマイナーキー
だよ。
なぜ曖昧に?
昨今の楽曲作品は一曲を通して終始明るい/暗いといったものは多くはないんだ。童謡や演歌のようなものなら明暗が一辺倒のものが多くて分かりやすいんだけど、昨今のAメロ/Bメロ/サビのような形式をもつポップスではドラマティックな展開の中で明暗の表情が移り変わりまくってることが多いんだ。
もしさ、「西野カナってアーティストは明るい?暗い?」って聞かれたらなんて答える?「曲によるよ」「一概には言えないよ」カナ?
それと同じで、Aメロが明るく、Bメロが暗く、サビ前半が暗くて後半が明るい、みたいなドラマティックな曲に「明るい曲(長調)」「暗い(短調)曲」って一概に決めにくいよね。
もちろん長調と短調を以下のように比べる決め方でもいいけどね、でも決める恩恵って何かあるかな?
- Ⅰ、Ⅴ、Ⅳの出現頻度 VS Ⅵm、Ⅲm、Ⅱmの出現頻度
- ⅠとⅥmどちらが最初に登場したか
- ⅠとⅥmどちらが最後に登場したか
逆に曖昧にすることにより聞いてる人の主観を表現する余白が生まれると思うんだ。「この曲は●メジャーキーだ」って言ってる人にとってその曲は明るく聴こえた、ってことになるじゃん?だからキミが言うCメジャーキーの曲を彼がAマイナーキーの曲って言ってもどっちも正解でいいじゃん?明るい/暗いを決めるのは聴いてる人の主観なんだってこと。
楽曲例と回答(≠解答)
先ほどのパプリカの回答(=僕の見解)は、こうだよ。
と長調/短調入り乱れまくり!あえていうのであれば、僕は長調と呼びたい派だよ。曲の終わりか主題(サビ)の終わりをその曲のキーとして呼ぶことが多いかな。終わりがすべてを物語る感じ。
トニックの二面性とセンター遷移
ダブルトニックの概念
「定義しない」「あえて言うなら」とふわっとしてる中、1つ明確に定義しよう。
キーはⅠ&Ⅵmのダブルトニックを持つ
つまり、キーはいわゆる長調と短調の二面性を内側に持つということ。具体例を挙げれば、CメジャーキーはAマイナーキーの顔も持つ、というようにメジャーとマイナーをセットで考えるということだよ!
長調=本屋の中、目的・ゴールのトニック=本を買うこと、短調=パン屋の中、目的・ゴールのトニック=パンを買うこととして例えると、
旧来の長調/短調の概念は、そもそも長調と短調とでゴール・目的(=トニック)を別物としてるんだ。だから本屋の中(長調の中)での本を買いたいという目的がパンを買いたいという目的・ゴールになった場合(トニックが変わる場合)、お店(調)を変えること(転調)が必要になる。
一方でダブルトニックの概念は、本もパンも売っているコンビニ!本を買おうと来店してパンが買いたくなっても(ゴール・目的=トニックが変わっても)お店は変えない(転調しない)。同じ店の中で目的(トーナルセンター:後述)が変わったって考えるだけ。
ダブルトニックのディグリー
旧来の音楽理論(後半に比較を記載するよ)の中の短調においては、長調でいうところの6番目の数字ⅵ(Cメジャーキーでいうとラのポジション)の音をⅰと置いて数字を振っていくんだけど、ダブルトニックキーでは長調も短調もセットで考えるから数字は長調の数字のままで見ていくんだ。
右の図を見てみて。上二つの赤と青の定規は半音を測る目盛のついた定規で、赤は長調のスケール=メジャースケール(0,2,4,5,7,9,11の箇所にⅰ、ⅱ…)を書いたもの、青は短調のスケール=マイナースケール(0,2,3,5,7,8,10の箇所にⅰ、ⅱ…)を書いたものだよ。
Cメジャーキーはドレミファソラ、平行調のAマイナーキーはラシドレミファソだから、長調の6番目から数え始めるスケールが短調のスケールと同じ、つまり音の間隔の並びとして合同だっていうのがわかるね。形が同じなのでダブルトニックキーでは一番下の紫の定規のとおり、長調と同じスケールのまま短調も考えるよ。
センター遷移
とはいえⅠもⅥmもトニックという主人公、ある瞬間において主人公はどちらかになってるんだ。
Ⅲmというドミナントを聴いてⅥmに行きたいかⅠに行きたいか?って考えると、この瞬間はⅥmというトニックを意識してる世界なんだ。これを楽曲中で2つの音が楽曲の中心(今後トーナルセンターと呼ぶよ、調の中心、楽曲の中で戻りたい先の代表音)の役割を交換し合うという意味で、今後ダブルトニック間のセンター遷移って呼ぶよ。(注:このサイトの言葉だよ)
ⅠとⅥmというトニックがトーナルセンターというみんなの目的地・ゴールテープを交換し合ってて、みんながそこを目指してるイメージ!(わかりにくい?)もしくは引率の先生が旗振り役を交換する感じ?
どちらかが主人公っていう言い方をしたけど、ⅰもⅵもセンターを交換しやすい間柄なので、実際は「今Ⅰがゴールだと感じてるけど、Ⅵmに行ってみたらⅥmがゴールになった!」っていう結果論のことが多いよ。それくらいⅠとⅥmはセンターを交換しやすいんだって思っておいていいよ。
ただ、さっきのⅢmの行きたい方向の例のように、「ケースによってはこっちの方が強く行きたい!」っていう長調や短調固有の概念もあるので、それについても今後この長/短を分けないキーの概念の中で吸収していくよ!
一般的な短調の概念との比較
一般的な長調/短調の概念との比較をするよ。 長調/短調を熟知してるキミはそれとの比較、よく知らないキミへはその一般的な概念への橋渡しとして比較表を見てみてね!
先にごめんすると、少し先々の概念(平行調、代理、ハーモニックマイナー…等々)を散りばめてしまうけど、今後記事にしていくからそこはご容赦お願いね!
対象 | 古くからある概念 | 本サイトの整理 |
---|---|---|
キー | キーは長調か短調のいずれか。 長調と短調は別キー。 ★例:Cメジャーキー(ハ長調)とAマイナーキー(イ短調)は別物 |
キー1つに長調と短調の2側面があり、長調と短調を分けて考えない。どちらで読んでもよい。
★例:Cメジャーキー(ハ長調)はAマイナーキー(イ短調)でもある |
ディグリー(右記はトライアド) | 長調は
短調は
★例:C,Dm,Em,F,G,Am,Bdimのダイアトニックコードは、CメジャーキーのときC=Ⅰ、Dm=Ⅱm…だけどAマイナーキーのときC=♭Ⅲ、Dm=Ⅳm…と数字を変える。 |
長調ベースの
短調としてみる時も
★例:C,Dm,Em,F,G,Am,BdimのダイアトニックコードはCメジャーキーでもAマイナーキーでもC=Ⅰ、Dm=Ⅱm…と表記する |
平行調 | 長調のⅥmをトニックとする調を平行調と呼ぶ。 逆に短調の♭Ⅲをトニックとする調も平行調。 ★例:AマイナーキーはCメジャーキーの平行調(Am=CメジャーキーのⅥmなので) |
調を区別しないので考える必要なし。ただし平行調という言葉は、ⅠとⅥm間でセンター遷移した場合、などの形容詞的に使う。
★使用例:「トーナルセンターがAのAmコードで暗い中、G→Cという進行は、平行調CメジャーキーのⅤ→Ⅰのドミナントモーションになっている」 |
(新)ダブルトニックという概念 | 長調のⅥmはⅠの代理、Ⅵmが楽曲の中心になったら平行調への転調と考える。 逆に短調の♭ⅢはⅠmの代理で、♭Ⅲが楽曲の中心になったら平行調への転調と考える。 ★例:「F→G→Cの流れの後のF→G→AmはCメジャーキーのトニックCの代理として使われてるが、その後Aマイナーキーに転調してBm7♭5→E7→Amと今度は正規のトニックとなる。」 |
ⅠもⅥmもトニック。明暗の差のみ。 曲調がⅠ中心でもⅥm中心でもセンターがどっちにあるかってだけを意識。 ★例:「F→G→Cで明るいトニック、そのあとはF→G→Amで暗いトニック。そのあとはBm7♭5→E7→Amで暗い運びからの暗いトニック。ここまでずっと同じキー。ただしセンターはⅵに移ってトニックはⅥm」 |
短調固有の拡張の扱い(記載は例として抜粋) | 短調のときに一時的に以下のような選択ができる
例:「ⅢmがⅢへと変化したので平行短調への転調と考え、このⅢを短調のⅤに置き換える。短調のドミナントⅤ出現によりⅠmへの解決をしたい状況となり~…」 |
センターがⅵにあるときに以下のような選択ができる:
例:「ⅢmがⅢへと変化したのでⅥmへの解決をしたい状況となり~…」 |
どうかな?省エネでしょ?ややこしく考えなくて済むっていうメリットが伝わったかな?古くからある一般的な長調/短調の概念は「作品を通してずっと暗さを纏う」ような曲調の分析には特化したものだとは思う。だけど、昨今の長調/短調入り乱れる作品ではどうだろう?都度転調と考えてディグリーを置き換えて、と面倒ではないかな?
ということで、『キミの音楽理論』では
- 考えるディグリーは長調基準で表記
- 曲調の明暗は平行調間の転調ではなく、同じ調内での2つのトニックの間のトーナルセンターの遷移と考える
- 長調や短調に固有で生じるトピックスたちもトーナルセンターがⅰやⅵにあるときという状況下で考える
という扱いだよ。長短入り乱れる昨今の作品への分析に最適化した視点だよ。
整理すると…
まとめ
今回は調の外へのお出かけ準備篇として、『キミの音楽理論』 での長調/短調の概念を説明したよ。音楽理論を始めたばかりのキミにとっても、ある程度熟知しているキミにとっても新しい整理法だったんじゃないかな?
以下にまとめるよ!
- 長調はメジャースケールで明るい
- 短調はマイナースケールで暗い
- キーは長調と短調の二面性を持つ、分けて考えない
- キーはトニックを2つ持つ(ダブルトニック)
- 長調のトニックはⅠ、短調のトニックはⅥm
- 調の中心音(すべての音の向かいたい先)をトーナルセンターと呼ぶ
- トーナルセンターはⅠ、Ⅵm間を簡単に移動する(一般的な概念ではこれを並行調への転調と捉えるが、『キミの音楽理論』では転調とは捉えず、センターが移動している状態と定義することでディグリーの読み替えなどをなくす)
- 上記センターの移動をセンター遷移と呼ぶ
- 一般的に短調と呼ばれてる曲調の中ではトーナルセンターはⅥmとなっている状態
- 短調の世界の出来事も長調ベースのディグリー=Ⅰ、Ⅱm、Ⅲm、Ⅳm、Ⅴ、Ⅵm、Ⅶdimであらわす(例えば短調のドミナントモーションⅤ7→ⅠmもⅢ7→Ⅵmと書く)
- 長調と短調を区別しないで捉えるのは、昨今の長調/短調入り乱れる作品を分析する最適解
とかとかかな。
それじゃーね!
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余談
今回の題材にもした、米津玄師作編曲のパプリカは楽曲分析してるから興味があれば見てみてね!
ほいじゃー!
コメント
[…] と分類される。本サイトでは長調と短調は同一キーとして分類するから上記は共存してるんだけど、今回のAメロ、Bメロではほぼ登場人物は後者短調のコードたちばかり。 […]
[…] 基本的には『キミの音楽理論』の短調の概念に倣い、平行長調のディグリーで表記する。これはつまり『小説7CM』の序章である『0cm』において、私が下した決心と同じ話だ。転旋等や光彩変更について表記するときは、以下のディグリー(光彩)のように表記する。 […]
[…] 基本的には『キミの音楽理論』の短調の概念に倣い、平行長調のディグリーで表記する。これはつまり『小説7CM』の序章である『0cm』において、私が下した決心と同じ話だ。転旋等や光彩変更について表記するときは、以下のディグリー(光彩)のように表記する。 […]
[…] 基本的には『キミの音楽理論』の短調の概念に倣い、平行長調のディグリーで表記する。これはつまり『小説7CM』の序章である『0cm』において、私が下した決心と同じ話だ。転旋等や光彩変更について表記するときは、以下のディグリー(光彩)のように表記する。 […]
[…] キミの音楽理論っていうサイトでも1つの調の中に長調性と短調性を内包するって話だったね。 […]